ヘルニアといえば、今では一般的に「椎間板ヘルニア」を思い起こすことでしょう。
しかし、昔(ローマ時代)、「ヘルニア」は「鼡径(そけい)ヘルニア」即ち「脱腸」のみを指したそうです。
現在は「体内の器官が本来あるべき部位からはみ出る病態」を意味し、○○ヘルニアといった
様々な病名になっていて、例えばいわゆる「でべそ」は臍(さい)ヘルニアです。
新刊『鼡径ヘルニアの歴史』は、鼡径(鼠径)ヘルニア手術に関する長年の外科医としての
疑問を追求し、20年の歳月をかけて答を出した意欲作で、世界で初の鼡径解剖史です。
実は鼡径ヘルニアの患者数は多く、こどもの20人に1人(約5%)、成人でも200人に1人(0.5%)
にみられますが、この病気についてはあまり知られていません。
鼡径ヘルニアの治療法は手術です。しかし、大人とこどもでは手術法が異なります。
それはこどもと成人では原因が違うと考えられているから――つまり、こどものヘルニアは
先天性、成人は後天性であると。
同じ病気と見なされているにもかかわらず、なぜ原因が違い治療法(手術法)が異なるのか。
そして原因が、なぜ年齢で線引きされるのか。
こども用の手術では再発は稀で、成人用の手術は時間が掛かるうえ数%以上の再発がみられます。
多くの手術経験から、成人とこどもの手術所見が全く同じだと気付いた著者は、その後、謎解きに
取りかかります。
文字通り、古今東西の膨大な文献を渉猟し、鼡径ヘルニアの旧い記述、名前の由来、ヘルニアの
原因説と解剖の歴史を丹念に調べていきます。
本書はその過程と結論をまとめたもので、外科学の通説に一石を投じた問題提起の書です。
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